初めて登った山

 初めての登った山は、16歳の夏に登った安達太良山でした。その初めての登山も単独行でした。安達太良山に登ろうと思ったきっかけは、自宅が福島県の郡山市にあり、祖母の家が猪苗代町にある沼尻にあったため、単純に山を超えて祖母宅まで歩いてみようと思ったことがそうであったような気がします。
 とはいえ、山登りの経験もなければ、なにが必要なのかも全くわからない素人高校生。情報収集のために、向かったのが今はなき東北書店。この東北書店は、郡山市駅前のアーケード内にあった当時の郡山での最大の書店であり、インターネットがない当時。最も多くのそして最新の情報収集ができる施設でもありました。学校帰りに、何度も立ち寄り、本も買わずに、熱心に地図や、ガイドブックを立ち読みして頭に安達太良山のアプローチや、登山ルートを焼き付けました。
 安達太良山に向かった日にちはもう覚えていませんが、夏休みに入った平日の朝だったように記憶しています。
 東北本線の福島行きの始発に乗り込んだ記憶があります。持ち物は15リットル程度のザック。ザックの中には、おにぎりが5個。水筒、タオル、以上。財布には7~8千円。半袖シャツにジーンズ。そして靴も普通の運動靴という出で立ちでした。
 二本松駅で降り立つと、朝にもかかわらず大変な日差しでいきなり汗ばんだのを覚えています。それからバスに揺られ、岳温泉へ。バスの乗客は自分ひとりでした。
当時は、独立国ブーム、これは井上ひさしさんの「吉里吉里人」という長編小説がきっかけなのですが、小説の中で東北の寒村が吉里吉里国として独立するストーリーで、これがベストセラーになり、日本中あちこちで独立国ブームが湧き上がりました。二本松市の岳温泉も、このブームに便乗したのかどうか、にこにこ共和国というネーミングで温泉のPRをしておりました。早朝の岳温泉は、まだひっそりとしており、静かな岳温泉に降り立つと、奥岳温泉まで歩き出しました。
日差しはいよいよ強く頭の後方をジリジリと焼いていきます。ここが素人の恐ろしさなのですが、帽子もかぶらずに歩いているので暑くてたまりません。少し陽炎立つアスファルトの坂道を下を向き、水筒の水を飲みながら歩いて行きました。
1時間少しくらい歩いたでしょうか?奥岳温泉に到着。ここで自動販売機で冷たいジュースを買います。ファンタオレンジを2本買って一本は飲み、一本はザックに入れて登り始めました。スキー場のゲレンデの草が膝上まで生い茂っている坂を上っていきます。足元が見えないのが心細く、足元に蛇でもいたら嫌だな。と少しビクビクしながら坂を上っていきました。スキー場の坂は、登ってみるとわかるのですが、上に登れば登るほど急になってきます。最初は元気よく登っていきましたが、すぐに息が切れました。なにしろペース配分もなにもあったものではなく、駆け上がるように、必死で坂を上がって行きました。
スキー場の最上部まで登ると本格的な登山道が始まります。今はゴンドラが通っていて、山頂駅まであっという間についてしまいますが、当時は歩くしかなく、最初のスキー場の急登を経て山頂に向かうのが一般的な安達太良山の登山スタイルだったようです。

黒い土の香りを嗅ぎながら、一生懸命に登っているとほどなくして五葉松平に到着しました。右手方向に谷川に降りる斜面とそこから勢至平へ向かうVの字の広大な広い斜面に密生している木に見とれます。街では見ることのない景色は忘れることができません。
さらに歩を進めると、薬師岳のみはらし台に到着。ここで登ってきたスキー場を見下ろして一息つきます。何しろ着替えも何もないので、日差しに焼かれて汗まみれになっている体をタオルで丹念にぬぐいます。
 そこからは山頂まで一本径。30分ほど歩くと、いきなり森林限界を超えました。当時は森林限界なんて言葉はしりませんが、本能的に山頂が近づいていることがわかります。歩くスピードがあがります。息を切らしながら山頂に向かって進んで行きました。ふと気づくと山の上に少しでっぱった岩山があります。乳首と形容される安達太良山の山頂です。ここをよじ登り山頂に上がりました。もう覚えていませんが、多分、すごく嬉しかったんだと思います。山頂には一時間くらいいたように思います。おにぎりを食べながら、一生懸命地図とまわりの山々を重ねて遠くの山を見ようとした記憶があります。
 山頂をあとにして、沼の平に向かいましたが、牛の背の尾根から見える沼の平を見たときの驚きと喜びときたら!月のクレーターに例えられる沼の平は、それまで登ってきた森と緑の安達太良山のイメージを一変する灰色の無機質でそれでいて広大すぎる景色でした。大げさといえば大げさですが、自分の中では、本当に宇宙に来たような感動を感じていたのかもしれません。登山道を見ると、沼の平を降りて沼尻に向かうコースになっています。この沼の平を降りて行く!
これが初めての登山でした。このあと、途中で水筒がカラになって大変きつい山行が続くのですが、下山した時の安堵感。幸福感、達成感を味わってしまったことが今も、登山を続けている理由のようにも思います。初めて山に登る。という人から、おすすめの山を尋ねられますが、まず、安達太良山を勧めてしまうのは、この時の山行の感動があるせいだと思います。

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